Film log

そういうところです。

女王陛下のお気に入り






17世紀イギリスを舞台に、2人の王室付きの侍女がアン女王のお気に入りの座を巡って繰り広げる、愛と欲望が交錯する歴史映画。

主要な登場人物は3人の女性。アン女王、その幼馴染であり王室の女官として最高地位に立つサラ、そしてサラの従兄弟にあたり、ある日職を求めて宮殿を訪れたアビゲイル
上流階級の生まれながらも父親の所為で一変、転落した人生を送っていたアビゲイルは、アンとサラの間に肉体関係がある事を偶然知ってしまう。そしてそれは、再び高貴な身分を取り戻す為の「勝利への手段を選ばないゲーム」のきっかけとなってしまったのだった。

わたし達は何か目的に向かって進んでいる時、"あたかも周りの人間も自分と全く同じ目的を目指すライバル"かのように感じることがある。それは、わたしが中学生の時に、友達のAちゃんより良い点数を取りたくてムキになっていた時の気持ちと似ている。例えAちゃんはテストの点数に全く興味がなかったとしてもだ。
アン女王というのは、実のところあまりイギリス国内でも有名ではないそうだ。イギリスが連合王国となって最初の女王こそ彼女なのだが、生涯で17人もの子を身篭ったが、12回の死産、流産を経験し、残りの子も幼くして亡くしているという悲しい経歴を持っている。この劇中でもアンは失った我が子と同じ数のうさぎを自室に飼い、哀しみを埋めるように愛情を注ぎ続けている。
そんな、自信がなく塞ぎ込みがちであったアンに対して厳しく接し、政治への支持も抜かりのないサラと、反対にいつも優しい言葉で慰め、そっと寄り添うアビゲイル
一見して彼女達は、女王のお気に入りという立場を奪い合うという、同じゲームで闘っているようにみえる。果たしてそれは本当にその通りだったのだろうか?

この映画の魅力は、絡み合う女性達の愛憎だけではない。
歴史映画、殊に王室となると、荘厳で堅苦しい外側のイメージが描かれがちだ。ところが、この映画の3人の女性は愛し、悩み、妬み、憎み…まるで現代の女性と変わらないかのように感情豊かで、男達を知恵で翻弄する。
映像面においては、他の映画では省略されるような中世の所作を再現している反面、貴族達の剥き出された虚栄心を皮肉的に描き、ダンスはオリジナル、美しいドレスたちはデニム生地などを用いて大御所の衣装デザイナー、サンディ・パウエルが手掛けている。過去の時代のストーリーながら、現代を見ているかのような演出だ。歴史と現代の美しい融合を、スクリーンでたっぷりと堪能する事が出来た。